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構音指導とMFT(口腔筋機能療法)の違い

構音指導とMFT(口腔筋機能療法)の違いを
言語聴覚士が、わかりやすく解説します

「歯医者さんでも舌の練習があると聞いたのですが、ことばの教室でやっていることと同じですか?」

ことばの相談室にいらっしゃる保護者の方から、こんなご質問をいただくことがあります。

とても大切な疑問です。結論からお伝えすると、どちらも「舌を動かすトレーニング」を含みますが、目的も、練習の中身も、そして受けるタイミングも異なります。

この記事では、言語聴覚士の視点から、わかりやすく整理してお伝えします。


MFT(口腔筋機能療法)とは

MFTとは、
主に歯科・矯正歯科で行われる口腔周囲の筋肉を整えるトレーニングです。
舌・唇・頬の筋肉のバランスを調整することで、
歯並びを守り、安定させることを目的としています。

たとえば、
舌がいつも前歯を押し出している癖(舌突出癖)があると、
せっかく矯正治療で歯並びをきれいにしても、
また元に戻ってしまうことがあります。
また、口呼吸や食べ物を飲み込む時の癖が、
歯列に影響を与えていることもあります。
MFTはこういった習慣を修正するためのアプローチです。

MFTで特に大切にされるのは「安静時の姿勢」です。
口を閉じているとき、舌は上顎の正しい位置(スポット)にあるか。
飲み込む時、舌が正しいパターンで動いているか。
こういった「いつもの状態」を整えることが、MFTの根幹にあります。


構音指導(言語聴覚士が行う発音の練習)とは

言語聴覚士が行う構音指導は、
「正しい発音を習得する」ことを目的とした専門的な訓練です。

「サ行がうまく言えない」
「ラ行が不明瞭」
「特定の音が歪んで聞こえる」
といったお子さんに対して、
音の正しい作り方を段階的に丁寧に教えていきます。

発音は、
舌・唇・息の流れが、
コンマ数秒の間に絶妙に組み合わさることで成立しています。
これは筋肉の力の強さで解決するものではなく、
「どこで」「どのタイミングで」「どれくらいの息で」という、
非常に繊細なコントロールの習得です。

また、
構音指導では「耳のトレーニング」も同時に行います。
自分が出した音を正しく聴き分けられなければ、
誤りに気づくことができず、
練習しても修正がむずかしいからです。
これはMFTにはない、言語聴覚士ならではのアプローチです。


二つの大きな違いをひとことで言うと

MFTは「筋肉というハードウェアを整える」
構音指導は「それを使いこなすソフトウェアをインストールする」

ピアノにたとえるとわかりやすいかもしれません。

MFTは
「ピアノの鍵盤を調律し、正しい位置に並べる作業」です。
楽器として機能するための土台づくりです。

構音指導は
「その鍵盤を使って、正確な音楽を演奏する技術を身につける練習」です。

どちらが大切ということではなく、どちらも欠かせない役割を持っています。


どちらに相談すればいいの?

保護者の方が一番気になるのは
「うちの子はどちらに行けばいいの?」
という点ではないでしょうか。
目安をお伝えします。

まず歯科・矯正歯科に相談することをおすすめする場合

  • 口がいつも開いている
  • 口呼吸が気になる
  • 食べ物を飲み込む時に舌が前歯を押し出している
  • 矯正治療中または矯正治療を検討している

といったケースでは、口腔機能の土台を整えることが優先になります。
MFTを通じて、まず「器」をしっかり作ることが大切です。

言語聴覚士に相談することをおすすめする場合

  • サ行・ラ行など特定の音が不明瞭または歪んでいる
  • 歯並びに問題はないのに発音がおかしい
  • MFTを続けているのに発音だけが改善しない
  • 発音が気になって人前で話したがらなくなってきた

といった場合は、言語聴覚士による専門的な指導が必要なサインです。


「両方が必要」なこともあります

どちらか一方だけで完結するケースばかりではありません。

たとえば、
前歯に大きな隙間がある状態では、
発音の練習をどれほど頑張っても、
息が漏れてしまい正しい音を作ることが物理的にむずかしいことがあります。
この場合は、
歯科的な治療とMFTで「器」を整えることが先決です。

逆に、
矯正治療で歯並びがきれいになっても、
発音時の舌の動きの癖だけが残ることがあります。
嚥下(飲み込み)と発音では、
脳の中で使われる運動プログラムが異なるため、
MFTで嚥下が改善されても、
発音の誤りは別途、言語聴覚士の指導が必要なケースがあります。

歯科の先生や歯科衛生士の方々と連携させていただく中で実感するのは、
「それぞれの専門性を理解し合っていると、お子さんへのサポートがぐっと変わる」
ということです。


特に注意してほしい「側音化構音」について

少し専門的な話になりますが、
大切なことなのでお伝えします。

「シャ行」や「チャ行」のように聞こえる、
歪んだサ行の発音を「側音化構音」といいます。
息が舌の中央ではなく、
口の横から漏れてしまうことで起きる発音の誤りです。

この側音化構音は、
MFTの筋力強化だけでは改善しにくく、
むしろ力を入れすぎると悪化することもあります。
言語聴覚士による、
息の流れの繊細なコントロール指導が必要なタイプです。

MFTを頑張っているのに発音の歪みが取れない場合は、
ぜひ言語聴覚士にもご相談ください。


まとめ

「食べる・話す・呼吸する」は、
生きていく上で欠かせない機能です。

MFTはその機能の土台を整え、
構音指導はその土台の上に「伝わることば」を育てます。

どちらが大切ということではなく、
両方がそろってはじめて、
お子さんのコミュニケーションはより豊かになります。

発音が気になっているお子さんの保護者の方へ。
「どこに相談すればいいかわからない」という状態が、一番つらいと思います。
迷ったら、かかりつけの歯科、または地域の言語聴覚士に、まず声をかけてみてください。

私たちはそれぞれの専門性を持ちながら、
連携してお子さんを支えることができます。
お気軽にご相談ください。


この記事を書いた人
言語聴覚士 ナラザキマイコ/ことばの相談室・専門職向けコンサルタント

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